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SoftwareAndObamasVictory


以下の文章は、Martin FowlerによるSoftware and Obama's Victoryの日本語訳である。


2008年の大統領選挙におけるバラク・オバマの勝利の裏には、ソフトウェアの重要な貢献があった――インターネットの利用である。しかし、最も興味深いのは、ソフトウェアの進歩とオバマ陣営の組織の発達との相互作用だった。

最終更新日:2009/7/30

本稿は、ザック・エクスレイと私のQCon London 2009での基調講演を基にしている。

目次


インターネットがなければ、バラク・オバマは大統領ではなかったでしょう。
--Arianna Huffington

2008年の大統領選挙にバラク・オバマが勝利したのはインターネットのおかげだ。 インターネットに暮らしている人たちがそう主張するのはごく自然なことだろう。 ジョン・マケインとの選挙戦においてインターネットが決定的な勝利要因だったかどうかは分からないが、大きな力となっていたことは確かだ。 また、ヒラリー・クリントンとの予備選においても、彼女が最有力候補だったが、インターネットがおそらくオバマの勝利要因となった。

オバマがインターネットを利用して成功したのは我々のおかげだと言うつもりはないが、多くのThoughtWorkerがオバマキャンペーンのソフトウェア開発に携わった[1]。 時折、私は現場に立ち寄ってみて、どのように物事が進められているのかを確認し、政治プロセスにおけるソフトウェアの利用にとても興味を持った。それから、こうした話に俄然興味を持ち始め、同僚のザック・エクスレイと2009年にQCon Londonで「オバマの勝利におけるソフトウェアの役割」という基調講演を行った。

本稿は限られた視点で書かれていることに注意して読んで欲しい。本稿の情報源はオバマキャンペーンに従事した同僚からのものだけである。キャンペーンに参加したその他多くの人たちに連絡を取って意見を集めるようなことはしていない。ネットでの情報収集や、他のキャンペーンや党の活動を調査などもしていない。やれば面白いのだろうが、時間やエネルギーは限られている。私がここで学んだことが、誰かにとって有益であれば幸いだ。

インターネットキャンペーンの目覚め

2000年にアル・ゴアがジョージ・W・ブッシュに負けたとき、ソフトウェアは政治運動に対してさほど影響力がなかった。 机上のPCは定型的なオフィス業務を行うだけで、それがソフトウェアの影響力の限界でもあった。 インターネットでの献金は100万ドルにもなっていたが、誰も注目しようとしなかった[2]。 (ゴアがインターネットの立ち上げに政治的な役割を果たしたことを考えると、皮肉なことである)

ハワード・ディーンが出馬した2004年の大統領選挙は、 多くの人たちにインターネットが政治プロセスに影響を与えられることを喚起した。 ディーンの支持の多くは(匿名者から真面目な団体まで)インターネットの活動によるものだった。

実際にそれが行われたのは、2003年の第2四半期のことだった――ディーンは、大金候補のケリー(500万ドル)やエドワード(500万ドル)よりも多い額を得た(800万ドル)。オンライン支持者の力によって、造反者が最有力候補を超えることができる。彼らがそのことを学んだ分岐点となる瞬間だった。ディーンのインターネットチームは、800万ドルの目標への達成度を示すメーターを設置した(野球バットの形をしている)。人々は、ブログ、メールなどを利用して、他の人にも献金を促した。このキャンペーンでは、貢献を加速するために、電子メールのリストを使った。これが一次情報源となっていた。
-- ザック・エクスレイ

ディーンは2004年の指名を勝ち取ることはできなかったが、彼と彼のキャンペーンは、民主党内で大きな影響力を獲得した。ディーンは次に民主党全国委員会(民主党を全国的に指揮する団体)の議長となり、2006年と2008年の選挙の基礎となる体制の多くをリードした。

ソフトウェアはここでも利用されていた。 キャンペーン中、ソフトウェアは非常にアドホックなやり方で開発されていた。 ギークなボランティア連中と、キャンペーンスタッフに参加した数名が、 自分たちのできることをPHPとMySQLといったLAMP環境を使って作り上げていった。 キャンペーンが終わると、このなかの多くのギークが、将来のキャンペーンのためにこのソフトウェアをベースにした開発会社を設立することに決めた。 この会社(Blue State Digital)は、2006年の議会選においてその役割を果たし、オバマの大統領予備選挙および大統領選挙においては、重要な役割を果たした。[3]

キャンペーンの組織ダイナミクスの変化

インターネットの利用は多くの注目を集めたが、他にも起きていることがあった――組織ダイナミクスの変化である。同僚のザック・エクスレイは、ソフトウェアの適用と共に 組織体制がどのように変化したかをよく話してくれる。

ディーン以前、キャンペーンは階層的な指揮統制体制だった。 キャンペーン事務所が階層の直下に指示を出し、報告を受けていた。 キャンペーンは、まるで指揮統制組織のようだった。

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図1: 指揮統制組織では、ボランティアを指示するキャンペーンスタッフを、さらに指示するキャンペーンリーダーが存在する。

ディーンキャンペーンでの大きな転換は、ピアツーピアモデルへの移行であり、正式なキャンペーン体制の外側にいることが多い個人のボランティアが、一緒になって物事を成し遂げられるようになった。

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図2: ピアツーピア組織では、ボランティアが直接、相互にやり取りする。

ギークや技術熱狂者たちはこれを未来のやり方と考え、ピアツーピアでネットワーク化されたシステムやオープンソースソフトウェア開発で見つかったパターンを活用しようとした。ディーンの活動家は、コミュニケーションのためにブログを使ったり、組織化のためにmeetup.comやディーン用のカスタムツールを使ったりした。
-- ザック・エクスレイ

これはブログの創成期のことで、多くの人々が課題や選挙戦略についてコメントできるプラットフォームを持つ機会を得た。

一般の人たちに国を取り戻そうとこのキャンペーンをやって来たが、一番いいのはインターネットを使うことだと分かった。我々は耳を傾けるし注意も払う。私のスピーチをブロガーが気に入らなかったら、次からスピーチを変えることもある。
-- ハワード・ディーン

このようなピアツーピア方式は、個人のボランティア(正式なキャンペーンには参加しそうにない人たち)に相当な活力をもたらす。 しかし、これでは指示がなくなってしまう――ディーンキャンペーンでは、アイオワ州党員集会(最初の予備選)で3位という予想外の結果に終わったことで、これが明らかとなった。 これは、インターネットのおかげで、ピアツーピアモデルと平行して発展した大衆組織モデルへとつながっていく。

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図3: 大衆組織では、キャンペーンリーダーがボランティアを直接指示する。

このモデルでは、指揮統制モデルの中間層を迂回して、キャンペーンリーダーが直接、最下層の活動家に連絡することがポイントだ。 MoveOn.org(活動家組織[4])はこのモデルのよい例である。 MoveOnはブッシュのイラク侵攻に反対する立場をとり、民主党の強力な支えとなった。

大衆組織は一般的な手法で、MoveOnなどのNGOでも使われている。しかし、ピアツーピアと異なるのは、お互いにサポートせず、時に足を引っ張り、アドホックなピアツーピアの自己組織モードで協働している点である。

オバマキャンペーンと先行者との主な違いは、大衆組織とピアツーピアモデルを融合させたことだ。 事務局から活動を指示するだけでなく、ピアツーピアの相互作用も促進した。 ここに、融合の一例がある。 ディーンとオバマのキャンペーンにおけるソフトウェアの重要な役割は、ボランティアのミーティングの計画を支援するイベントプランニングソフトウェアだった。 純粋なピアツーピアでは、ボランティアが緊急の課題(たとえば医療制度)についてのミーティングを開くことができる。 イベントプランナーにミーティングの日時・場所・議題・人数などを入力すればよい。 システムで設定した様々なソーシャルグループに告知することもできる。 同じ政治サイトを使っている他のボランティアは、オンライングループに告知されたミーティングを目にすることができるし、これから開かれるローカルミーティングを検索することもできる。ゲストボランティアはイベントプランニングソフトウェアを使って、ミーティングのRSVP(出欠入力)ができる。これでホストは誰が参加するのかが分かる。

大衆組織モデルでは、このプロセスはキャンペーンリーダーが発端になる。 彼らは、2、3週間で医療制度について話し合うために、組織的な推進を図ろうと決める。 ボランティアにこの日程でミーティングを開いて欲しいと提案する。 記事やDVDなどの材料を提供するかもしれない。 口コミが起こると、ミーティングの準備がしやすくなる。 口コミは、その議題についてのローカルミーティングを探そうとしていた潜在的な参加者にも伝わる。

massp2p.png

図4: 大衆組織とピアツーピアモデルの融合

こうしたインターネットツールはオバマキャンペーンの目に見える役割を果たした。 MyBarackObama?.comは、Blue State Digitalのソフトウェアの事例だが、オバマキャンペーンのインターネットの顔だった[5]。 "Mybo"は、支援グループ[6]、イベントプランニング、編集者への手紙[7]、などと呼ばれ、個人がキャンペーンに貢献できる様々な方法のホストとなった。 Myboはオバマキャンペーンのソフトウェア兵器の目に見える部分を担っていたが、それだけではなかった。ピアツーピアと大衆組織モデルのシンプルな融合よりもさらに発達した組織パターンが生まれている。 こうした側面を調査するためには、ここまで触れてこなかった部分に触れなければならない――地方組織(the field organization)である。

有権者について知る

政治キャンペーンに関するニュース記事を読むと、「空中戦」や「地上戦」という用語を目にする。 空中戦は、テレビ(やインターネットも含む)を使ったキャンペーンを指し、地上戦は、地に足をつけた実地のキャンペーンを指している。 実地は、ボランティアがキャンバシング(戸別訪問)をする。 キャンバシングとは、個人的に接触して、有権者を獲得したり、選挙に行って投票してもらったりすることである。

キャンバシングの基本的な活動はとてもシンプルだ。 熱心なボランティアを集める。 訪問する家庭を絞る。 ボランティアに訪問する家庭を割り振る――このプロセスは芝刈りと呼ばれる。 ボランティアのためにウォークパケットを準備する――ウォークパケットとは、ボランティアが訪問する家庭のリストである。 ボランティアに動いてもらう。 キャンバシングが終わったら、ウォークパケットを集める。 ウォークパケットには、訪問先の情報が含まれるからだ。 そこには、訪問先の情報を集めるためにボランティアがする質問も含まれている。

キャンバシングのコツは、訪問者が話しやすい家庭を見つけることである。 そうすることで、時間を効率的に使えるようになる。 まずは、家庭を大きく3つに分ける。

  • 反対派: 無視したい家庭。考えを変えることは絶望的にできない。無理にやろうとすると逆効果で、訪問者にとっても非生産的なことだ。
  • 浮動派: 支持してもらえるようお願いしたい家庭。こちら側へ誘うためには、彼らがどの問題に関心があるのかを知る必要がある。
  • 支持派: いれば嬉しい家庭。ただし、放っておいてはいけない。支持派には2つのことをやってもらいたい。まず、選挙日に投票所に行き、確実に投票してもらいたい。次に、ボランティアになって、他の家庭を訪問してくれるかどうかを教えてもらいたい。

ここでは家庭について話そう。 一緒に住んでいるけれど、政治的選択肢が違うという人たちはいる。 しかし、同じ家庭の人間であれば、同じように投票することが多い。 そのため、キャンバシングでは、1つの家庭を1単位としてカウントする。

このような家庭に関する情報については、コンピュータに追跡させたほうがよいことは想像に難くない。実際、2006年の選挙では、こうした話を耳にし始めた:

たとえば、オハイオ郊外に住むアフリカ系アメリカ人の女性は民主党に投票する傾向があるが、彼女は2004年に、電話、メール、メッセージといった通信ツールの洪水にあった。それらは共和党からのもので、どういうわけか彼らは、彼女が私立学校の子供を持つ母親であること、熱心に教会に通っていること、中絶反対者で、ゴルフをする人であることを知っていた。
-- LAタイムス

ここで述べられている共和党のシステムは、Voter Vault(有権者の詳細なデータベース)だ。民主党は、この分野では共和党の後追いをしていたが、2005〜2008年のうちに共和党に追いつくという確固たる決意をし、私のかつての同僚であるジョシュ・ヘンドラーによってリードされることとなった。こうしたデータを活用するために、民主党は別のシステムを使った――VANである。

Blue State Digitalのように、VANもあるキャンペーン(ここではトム・ハーキンの2002年のアイオワ上院選挙)のアドホックな開発として始まった。 Blue State Digitalのように、このソフトウェアも長期的に開発されることとなった――そして、Voter Activation Networkと名づけられた(通常はVANと呼ばれる)。 このVANは、2004年に様々な州の選挙に使われた。 しかし、民主党は、2008年までに国内全域で使える国内投票者データベースを搭載した単一のVANを持った。それは、VoteBuilderと呼ばれた(しかし、いまだにVANと呼ばれるため、ここでもそう呼ぶことにする)。 Blue State Digitalとは違い、VANは、VB、SQL Server、ASP.NETで構築された.NETアプリケーションである。 民主党と共和党。.NETとLAMP。 この文化的な違いは不思議なものである。

LAタイムスは上記のことを 「政党はあなたのことを知っている」 というように少し恐怖めいて引用している。 だが、真実は少しばかり単調である。 有権者の基本的な情報源は、投票者出席簿からきている。 基本的な投票データは、各州で互換性のない形式で保持されている。 投票者出席簿には、氏名、住所、党派関係[8]、投票履歴が記載されている。 こうした投票者の活動記録は、大統領選と予備選をカバーしているが、誰に投票したかまでは含まれておらず、投票したかどうかだけが記録されている。 しかし、この情報からでも、投票する人かどうかが分かってしまう。

この情報は、公開市場で購入できるデータによって増幅される。 よい例は、雑誌の定期購読情報だ――これで先の女性がゴルフをする人だと分かった。

VANのデータは総計値である。ある人が誰に投票したかは分からない。 しかし、ある選挙区の投票者の合計数は分かる[9]。 先の女性は80%が民主党を支持する地区に住んでいたため、民主党支持者としてタグづけられていた。 人種、教会への出席、課題への見解、子供がどこに就学しているか、などに相似する総計値データは存在する。 共和党は彼女個人にマッチするデータは持っていなかったはずだ。 ただ、総計データを使って、彼女のデータをはじき出したのだ。

キャンバシングをすると、こうした情報の多くは個別にマークできる。 説得力のある見解がなくとも、 キャンバシングは情報を集めるだけで価値が出る。 特にデータが古くなっているときはそうだ。 キャンバシングが重要なのは、変更された住所や電話番号のアップデートである。

VANがすごいのは、こうしたデータを簡単に、広い範囲で集められることだ。 他にも、キャンバシングの計画を簡単にできるというのもある。 VANでは、ユーザーが適切な有権者を探すための検索が可能である。 たとえば、近所に住むある年齢層の人々、といった具合である。 そしてそれを地図に表示する。 これで、キャンバシングで訪問する家庭を最初に振り分けることができる。 ユーザーはこの地図を使って人を分類し、ボランティアのために芝刈りができる。 VANはウォークパケットをプリントアウトすることもできる。 最近は地図を取得するのが簡単になり、ウォークパケットの家庭を地図上にマークできるようになった。これでボランティアのキャンバシングが簡単になった。

VANはウォークパケットが返ってきたときも役に立つ。 質問事項は、データ入力が簡単にできるように、バーコードでタグづけされていている。 ユーザーは「オバマを支持する有権者」のコードを入力し、それに当てはまる家庭のフォームを入力する。 バーコードは、コンピュータと印刷物の絶妙なコラボレーション方法である。

投票者を追跡すると同様に、VANはボランティアも追跡する――あるイベントへの参加に同意したのが誰か分かる。 つまり、事務局が必要な様々なタスクをより簡単に実行できるということだ。 そして、熟練した人にとっては、何が起こっているかに目を通すのが簡単になった。 これは、ザック・エクスレイによる 政治的組織ダイナミクスモデルの最終形のおかげで、 より扱いやすくなった。

地方組織の再考

ピアツーピアと大衆組織の融合は、個人ボランティアのベースに活力を与えることに優れている一方で、地方組織をやや無視している。 しかし、地方組織は、効果的なキャンペーンに必要不可欠な部分を残している。 先のオバマキャンペーンにおける組織形態の変化は、地方組織の運営の障害となった。 多くのことと同様、 多くのことと同様に、これも必要から生まれ、ソフトウェア(ここではVAN)の能力と合致した。

オバマが予備選でヒラリー・クリントンと対抗したとき、 彼のキャンペーンは地方組織に関する大きな問題に直面した。 クリントンは既に地方の民主党組織基盤を確立していたのである。 オバマは多数の熱狂的な個人の支持者がいたが、 予備選に勝てるほど組織化されたものではなかった。

組織の変化というのは、キャンペーンの有給スタッフの役割を変えることだった。 従来、有給スタッフはボランティアをまとめることに最終的な責任があった。 たとえば、先に私が述べたキャンバシングのとりまとめなどである。 オバマキャンペーンでの有給スタッフの役割は、ボランティアのまとめ役を見つける、リクルートする、サポートする、ことに変化した。 このモデルでは、キャンバシングは、ボランティアと彼らを支援するスタッフとで構成されていた。

スタッフは有望なボランティアのまとめ役を見つけて、彼らを小さなチームに入れる。 キャンペーンは、地方ボランティアグループの運営のような様々な活動の方法をチームが学ぶためのトレーニング講習を行う。 彼らは、援助やアドバイスを受けるために、スタッフと定期的に連絡をとる。

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図5: ザックの組織モデルの最終形はすべてのレベルのすべての人が完全につながる。

ザックはこれを「核分裂」のキャンペーン版と呼んでいる。 スタッフの手の届く範囲や地方組織が立ち上がって実行されるまでのスピードが桁違いだからである。 さらに、多くのボランティアに権限を委譲して活力を与えた。 ボランティアは、ドアをノックしたり電話したりするだけでなく、 こうした活動を自分たちのために組織化することに参加できたのである。

VANによって、ボランティアのまとめ役は、 ウォークパケットを作り、家からキャンバシングを実行できるようになった。 ボランティアの家はキャンペーン事務所となり、キャンバシングや電話帳の「実行場所」となった。 VANを使うことで、こうしたことが簡単に学べ、すばやく行うことができるようになった。 ボランティアが自分たちで組織化していくには、経験や時間た足りない分、この両方が必要である。さらに、データにアクセスできることで、スタッフは何が起きているかを把握でき、効率的にボランティアとコラボレートすることができた。

私も含めてアジャイルソフトウェアな人たちは、プロジェクト計画への自由なアクセスが全員参加を可能にすると考えている――計画づくりの有効性と仕事へのモチベーションの両方を加速させる。 キャンバシングの計画づくりをボランティアにオープンにするのも同じことである。[10]

Neighbor to Neighbor(隣人の隣人)

芝刈りとウォークパケットを準備するVANのツールは、地方組織に効果があり、ひいてはキャンペーン全体に影響のあるものだった。 しかし、オバマキャンペーンが対処すべき大問題は、ほとんどの州における地方組織の不足だった――ニューヨークやカリフォルニアなど人口の多い民主党の拠点も含まれる。 これは、Myboに「Neighbor to Neighbor」と呼ばれるツールを付加することにつながった。 これは、地方組織がいないボランティアが直接仕事を実行できるようにするものだった。

結果として、VANとMyboに重複する機能がでてきた。 しかし、ターゲットユーザーには大きな違いがあった。 VANは地方組織のためのツールだった。 地方組織でボランティアを効果的に活用したオバマキャンペーンは、 ボランティアを地方組織で働かせるというポイントは変えなかった。 Myboはより広いボランティアコミュニティをターゲットにしていた。 そのため、芝刈りツールによって、誰でもキャンバシングを組織することができた。

オバマキャンペーンでは、VANとMyboを芝刈りに使った。 地方組織のときはVANを、よりカジュアルなボランティアにはMyboを使った。 VANの有権者データを、Myboを使うボランティアが利用したり、Mybo内にある調査結果でVANのデータを増やしたりするために、VANとMyboの統合も計画した。

VANのドアツードアを繰り返すよりも重要なのは、Neighbor to Neighborによって、電話キャンバシングのサポート能力をアップすることだった。 電話キャンバシングは、大統領選挙では特に重要である。 候補者は「独り占めの原則」で州を獲得していくため、 オバマにとって安全なマサチューセッツ州では、 民主党支持者は隣人にキャンバシングをする必要があまりない。

総選挙でのオバマ陣営は、約12の州にしか存在していなかった。そのため、Neighbor to Neighborは、すべての他の州のボランティアで、スタッフはついていなかったのだ。地方キャンペーンは「揺れる州」や「激戦州」だけで行われた。Web以前は、こうしたボランティアは何もやることがなかった。カリフォルニアやニューヨークの民主党支持者の追加投票はさほど重要ではないからだ。しかし、Neighbor to Neighborでは、ボランティアによってアービトラージ(鞘取り)ができる。つまり、カリフォルニアやニューヨークのボランティアがフロリダやオハイオに電話できるのだ。ケリーキャンペーン(2004年)やMoveOn.org(2006年)でもこの手のツールを作っていたが、オバマキャンペーンでは史上最大規模で実行できた。
-- ザック・エクスレイ

誰もが Neighbor to Neighbor を使ってキャンペーンデータやアップロードされた新しいデータを見ることができたため、共和党支持者が使うかもしれないという懸念が出てきた。 これを防ぐための処置は施していない。 システムに誤ったデータが入力される懸念もある。 全体的に見ると、キャンペーンでは、誤ったデータが大量に入っているとは考えなかった。

取得できるデータには制限があった。一定量を取得したら、次のデータを取得する前に、その結果を報告しなければならなかった。不正入力の自動検知機能があり、誤ったデータを入力したら、驚くほど簡単に見つかった。これはMoveOn、ディーン、ケリー、オバマのキャンペーンで何度も学習された結果だが、反対派はさほど効果もないダメージのために時間を無駄にしたくはなく、それよりも自分たちの候補者のためにできることをしたほうがよいと考えた。
-- ザック・エクスレイ

スタッフとボランティアは自分たちの地域のデータに注意するように言われていた。 不正なデータに目を向けるだけでなく、その地域の人により親しいボランティアを見つけるのである。[11]

巨大なスパム銃

オバマキャンペーンにおけるソフトウェアの役割で多くの注目を集めたのは、新しいWebツールだった。 しかし、おそらく、最も重要なソフトウェアツールキットの役割は、メーリングリスト*1だった。 キャンペーンの終了までに1,300万人がメールアドレスを登録した。ここでの課題は、数時間以内にすべてのメールアドレスに質問状が届くように、メールを組み立て、送信し、ログ化することだった。より詳細な質問状[12]は、リストの一部の人に届けられた。

膨大なメールを配信する仕組みは興味深い問題である。 しかし、メールがゴミ箱に入れられてしまったら、意味がない。 メールの配信と同様に、メール内容にも凝らなければならない。 オバマキャンペーンでは、何かをお願いするだけではなく、とあるスタイルを使うようにした。 状況の背景を説明したり、どのようにしようとしているかを説明したり、受け手ができることのを提示したりしたのである。 背景を知ることで、ボランティアはキャンペーンに親しみを感じ、キャンペーンの戦術に合致する活動を思いつくことができるようになる。 つまり、何をするかだけでなく、なぜするのかも伝えるのである。

キャンペーンでは、メールスパム銃だけでなく、SMSも使った。 副大統領の選出について考えていたときは、SMSにブロードキャストして、アナウンスを行い、サインアップすれば情報をすばやく受け取れると提示した。 これによって、膨大なSMSリストが出来上がり、後の質問に使われた。

ビデオ

2004年のキャンペーンでは、多くの民主党員が熱心にビデオを使った。 多くの政治家が不満に思ったのは、 ニュース局が最も重要な政治演説のわずかな断片しか放送せず、 最も注意深く構成した主張をほんのわずかしか引用しなかったことだ。 しかし、2004年では、必ずしも技術に明るくない大勢の観客に、簡単に動画を届けられるようなビデオ機能を設置するのは難しすぎた。

オバマは異常なまでに有能なスピーカーであるため、オバマの支持者にとってはビデオを活用できないことは大変な不満だった。 幸い、2008年までにはYouTubeが登場し、みんなが使えるビデオ配信の仕組みが提供された。 オバマキャンペーンはYouTubeビデオを広く活用した。 料金がかからないことも喜ばしいことであった。 オバマの選挙戦に関するスピーチは、思慮深い40分の演説だったが、数百万ビューを獲得した。

ビデオはメールのなかでも重要な役割を果たした。多くのメールの質問は、キャンペーンリーダーがボランティアに直接話しかけるビデオへのリンクと一緒に配信された。 これは、質問に対する詳細な背景を説明するメールを作成するのに役立った。

今後の展望

オバマキャンペーンは多くの人たちに政治に大転換が起きたことを思わせるものだった――草の根レベルの努力が国の政治を変えることができる。 本稿の最初で言ったように、これはオバマが(民主党が優勢だった)大統領選に勝利したからというよりも、予備選でヒラリー・クリントンに勝利したから言えるのである。

次の質問は、ソフトウェアで可能になった組織モデルの変化が、将来の政治的行為にとって何を意味するのかである。 オバマの設備は、アメリカの医療制度を変えるための草の根運動の促進に使われている。 多くの人々は、こうした草の根運動が、アメリカの医療制度の現状を支持する強力な団体の影響を打ち破る唯一の方法であると信じている。

こういうことには私は興味がある。自分の政治的な視点も持っているが、それらの多くは、こうした努力への共感だ。 もっと基本的なことでは、私はツールが好きなのだ。 ソフトウェアだろうが組織だろうが、一般人が政治に影響力を持てるようなツールが好きだ。 民主主義は、みんなが国の運営に参加することの上に成り立っている。 官僚やお金という層が、簡単に人々と政府の間に入り込んでくる。 ソフトウェアはそれを切り開くことができる。 私はそれがソフトウェアの大儀だと思うんだ。


脚注

[1] ThougtWorksの関与
総選挙では、ThoguthWorksは、オバマキャンペーンのいくつかの重要なソフトウェアプロジェクトに関わった。Blue State Digital、民主党全国委員会、ObamaForAmericaの請負業者としてである。また別チームは、バックエンドのスケーリングプロジェクトに取り組んだり、ボランティアのための草の根組織アプリケーション「Neighbor to Neighbor」を作ったり、ObamaのFaceBookアプリケーションを作ったりした。

[2] インターネットスタッフ
ここ数年で変わったことと言えば、インターネットにフォーカスしたキャンペーンスタッフの数だ。2000年のゴアのときはごく少数だったものが、2004年のケリーのときは60〜70人となり、そしてオバマのときは数百人にも上った。

[3] Blue State Digital
Blue State Digitalは、ここ数年でかなりの規模の組織に変化し、今では世界に100以上ものクライアントを抱えている。彼らの営利団体としての成功は物議を醸すところだ。 多くの政治ソフトウェアの活動家は、オバマの勝利における彼らの役割が広告では誇張されていると考えている。

[4] MoveOn?
MoveOnは、ビル・クリントンの弾劾のときに作られた――名前は「Censure President Clinton and Move On to Pressing Issues Facing the Nation(クリントン大統領を非難して、わが国に差し迫った課題に移ろう)」に由来する。

[5] 選挙後のMybo
選挙後には、my.barackobama.comが、民主党全国委員会の運営する「Organizing For America(アメリカのための団結)」に変わった。 これは、オバマのアジェンダに連動した様々な取り組みのための改革を調整するために使われている。 オバマは今は大統領だが、これは彼にアメリカの政治システムにおける政治コントロールを与えることではない。 何かを成し遂げるには、議会の主導権を取り、彼のチームが、キャンペーンで議会へのプレッシャーを沸き立たせたのと同じ草の根運動が役に立つと信じなければならない。

[6] Myboのグループ
Myboユーザーはグループを検索したり参加したりできる。 Myboに参加したらまずやることの1つだ。 こうしたグループは様々な方法で形成された。 ある地域の支持者を集める純粋に地方指向のものもある。 職業や職場で集めるものもあれば、 課題に焦点を置いたものもある。 確かに、Myboの最も人気のあるものは、 FISA*2。のバラク・オバマの立場に反対するために作られ、彼の考えを変えようとした。

グループ開発は完全にユーザーに基づいたものだ――好きであればグループを作れるし、制限はほとんどない。 グループの形成は、そのため、ピアツーピア組織モデルとなり、 アドホックに形成されたグループで成り立っている。

Myboのグループ機能は、メーリングリスト、イベントカレンダー、メンバーディレクトリといったインターネットの様々なソーシャルグループソフトウェアを使ったことある人にはよく知られたものである。 多くのギークにとっては退屈なものだが、キャンペーンに関わる人の多くにとっては、比較的新しい。これによって、グループが活動をコーディネートできる。 Myboはブログサービスも提供した。 ボランティアは、個人的にも、グループの一員としても簡単にブログを投稿できるようになった。 これも特に新しいサービスではないが、ブログに馴染みのなかった人たちが キャンペーンのなかで新しい技術に触れることができた。

[7] Myboの"編集者への手紙"
「編集者への手紙」機能では、支持者が新聞社に特定の立場を主張する手紙を書くことができる。 これを使用するときは、自分の住む町の地方誌を検索し、新聞社に送る手紙を書く支援を受ける。最初は手紙のサンプルテキストが記載されていた。 しかし、サンプルを真似する手紙が多すぎたため、人気を失っていった。 その後は、書き手が独自の表現ができるように、手紙で触れる論拠の一覧を載せるようになった。

[8] 党派関係
アメリカで投票するために登録する場合、党派に登録したいか尋ねられる。 登録する必要はないし、必ずしも登録した党に投票する必要はないし、党派の会員になるものでもない。州によっては、予備選では登録した党にだけ投票できる。

[9] 選挙区
選挙区は家庭の集合体である――通常はみんな同じ投票所で投票する。

[10] VANを開くこと
有給スタッフよりもボランティアにVANを使わせるようにしたのは、オバマキャンペーンが最初だった。 そのために、先のキャンペーンより受け継がれた堅牢な認証機能のあるVANに若干の修正が必要だった。

[11] Neighbor to Neighborのプライバシー
隣人のプライバシーに関する情報を見つけられるだろうか? 実際は、有権者の氏名と住所だけしか手に入れられないため、制限されている。

[12] 質問状(Ask)
"質問状"はボランティアに対する要請。活動家の周辺では、普通名詞になってきたようだ。

謝辞

本稿は本キャンペーンで携わった同僚との会話を基にしている。特に、発展の要因となったテクノロジーに長く携わってきたザック・エクスレイとジョシュ・ヘンドラーには大いに助けられた。

改定履歴

  • 2009/7/30: 初稿

翻訳について

  • 2009/8/18: 直訳 by kdmsnr
更新日時:2014/04/23 17:38:33
キーワード:
参照:

*1 [訳注] 英語の "mailing list" には「アナウンスリスト」と「ディスカッションリスト」の2種類の意味があるが、これは前者の意味。日本では後者の意味で使われることが多い。

*2 [訳注] FISAは外国防諜活動偵察法。オバマはこれに賛成の立場だった。

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